東京高等裁判所 平成11年(ネ)5672号 判決
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人加藤嘉吉に対し、一億円及びこれに対する平成一〇年三月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。(当審において請求を減縮した。)
3 被控訴人は、控訴人加藤進一に対し、二億円及びこれに対する平成一〇年三月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。(当審において請求を減縮した。)
4 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二事案の概要
本件事案の概要は、左記一のとおり付加、訂正し、二のとおり当審における控訴人らの損害についての主張を掲記するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」欄に記載されたとおりであるから、これを引用する(略語も原判決のそれによる。)。
一1 原判決の四頁二行目、三行目、四行目、五行目及び六行目の「嘉吉」をいずれも「原告嘉吉」と改め、同頁末行の「進一が」を「原告進一が」と改め、五頁一行目及び二行目の「進一」をいずれも「原告進一」と改める。
2 原判決の五頁一〇行目の「父清吉」の前に「昭和二四年の」を加え、同行の「その後」の次に「昭和二九年に」を加える。
3 原判決の六頁一行目から九頁四行目までを次のとおり改める。
「3 被告(昭和五年六月生)は、かねて原告嘉吉(大正一一年一一月生)に対し、KSの社長の地位を譲ってくれるよう申し入れていたが、原告嘉吉はこれを受け入れ、昭和六二年八月三一日、原告嘉吉と被告は、別紙合意書と題する書面により、概要、次のとおりの本件合意をした。(甲二、一五、乙六)
<1> 原告嘉吉は、昭和六二年九月三〇日までに、KS及び埼光ゴムの代表取締役社長を退任し、代表取締役会長に就任する。被告は同時にKS及び埼光ゴムの代表取締役社長に就任する。
被告は同時に鶴見化学及び加藤不動産の代表取締役社長を退任し、代表取締役会長に就任する。原告嘉吉は同時に鶴見化学及び加藤不動産の代表取締役社長に就任する。ただし、被告の鶴見化学の代表取締役会長への就任と原告嘉吉の同社の代表取締役社長への就任は当面延期する。
<2> 原告嘉吉及び被告は、昭和七〇年九月三〇日にKS、鶴見化学、埼光ゴム、加藤不動産の代表取締役をそれぞれ退任し、原告進一及び訴外千太郎が同時に各社の代表取締役に就任する。
<3> 原告進一、訴外千太郎の両名は、昭和六二年四月よりKSに入社し、一般社員として待遇されるが、四年以内に取締役に就任し、その時以降は同一報酬、同一待遇とする。
<4> 原告嘉吉、被告は、KSグループ各社の代表取締役を退任後、昭和八〇年末まで、両人が同額の一定報酬をKSグループより受け取ることができる。
<5> 原告嘉吉一族、被告一族のKSグループ各社に対する出資比率は平等とし、今後とも両家一族が対等にして機会均等、平等互恵の経営を旨とし、一方が他家を支配できるような持株比率、定款、役員会若しくは組織、派閥等を作らないものとする。
4 本件合意に従い、原告嘉吉は、昭和六二年九月にKSの代表取締役社長から代表取締役会長になり、被告は、代表取締役専務から代表取締役社長になった。鶴見化学の代表取締役社長は依然として被告であった。
そして、原告嘉吉及び被告は、その後も平等にKSグループ各社を経営してきた。(争いなし)
5 昭和六二年四月にKSに入社していた原告進一と訴外千太郎は、ともに、昭和六三年一月に加藤不動産の、平成二年二月に鶴見化学の、同年五月に埼光ゴムの、同年一二月にKSの各取締役に就任した。(弁論の全趣旨)
6 しかし、平成五年一〇月ころから原告嘉吉と被告との仲が円満を欠くようになり、平成七年三月にKSの村田信雄取締役が急死した後はKSの取締役会において被告を支持する者が多数を占めるようになった。(弁論の全趣旨)
7 原告嘉吉は、平成七年一〇月に開催されたKS及び鶴見化学の各取締役会において代表取締役を解任され、いわゆる平取締役となり、また、同年一一月に開催された埼光ゴムの取締役においても代表取締役を解任されて平取締役となった。被告はこれらの決議に賛成した。(甲七、弁論の全趣旨)
この間の平成七年九月末日をもって本件合意<2>に定める「昭和七〇年九月三〇日」が経過したが、原告嘉吉も被告もともにKSグループ各社の代表取締役を辞任することはなく、また、原告進一及び訴外千太郎が代表取締役に選任されることもなかった。(弁論の全趣旨)
8 平成九年二月二六日開催の鶴見化学の株主総会において、同社の役員報酬の決定が取締役会に一任され、同日開催の取締役会において、役員報酬の具体的配分が代表取締役である被告に一任された。(争いなし)
そこで、被告は、平成九年四月から自己の役員報酬を月額一五万円より八〇万円に増額し、役員賞与を零円から二七〇万円にする旨の決定を行い、一方、原告嘉吉の役員報酬は従来どおりの月額一五万円に据え置き、役員賞与を六〇万円とした。(争いなし)
9 KSの役員報酬については、平成九年四月から被告の報酬が月額一八〇万円に増額されたが、原告嘉吉の報酬は月額一四〇万円に据え置かれ、さらに、平成一〇年一月からは月額七六万二〇〇〇円に引き下げられた。(争いなし)
10 平成九年一二月四日開催のKSの株主総会において、原告進一は取締役として再任されなかった。被告はこれに賛成した。(甲九、一六)
同日、原告嘉吉は会長職から相談役に格下げされた。(争いなし)
11 原告嘉吉及び同進一は、平成一〇年三月三〇日開催の鶴見化学の株主総会においてともに取締役に再任されなかった。これには被告も賛成した。(弁論の全趣旨)
12 原告嘉吉は、平成一一年一二月一五日開催のKSの株主総会において取締役に再任されなかった。これには被告も賛成した。(弁論の全趣旨)
13 本件訴えが提起された平成一〇年二月当時のKSの株式は、その二九・一二五パーセントずつを原告嘉吉(その家族を含む。)と被告(その家族を含む。)が保有し、二二・五パーセントを鶴見化学が保有し、残りの一九・二五パーセントを加藤不動産が保有しており、鶴見化学の株式は、その三一パーセントずつを原告嘉吉(その家族を含む。)と被告(その家族を含む。)が保有し、一八パーセントをKSが保有し、残りの二〇パーセントを加藤不動産が保有していた。埼光ゴム及び加藤不動産の株式は、いずれも、その五〇パーセントずつを原告嘉吉(その家族を含む。)と被告(その家族を含む。)が保有していた。(弁論の全趣旨)」
4 原判決の別紙として本判決別紙「合意書」を添付する。
二 控訴人らの請求する損害(当審において減縮)
1 控訴人嘉吉
控訴人嘉吉は、平成一〇年三月三〇日開催の鶴見化学の株主総会において取締役としての再任を拒否され、また、平成一一年一二月一五日開催のKSの株主総会においても取締役としての再任を拒否された。これにより、控訴人嘉吉は、鶴見化学の取締役としての報酬年額一一〇〇万円を平成一〇年から平成一七年(昭和八〇年)まで受け取ることができなくなり、また、KSの取締役としての報酬年額二三六〇万円を平成一二年から平成一七年まで受け取ることができなくなった。
その得べかりし報酬額の平成一〇年三月当時の現価は、年五分の割合によるライプニッツ方式で計算すると、一億九〇八七万九三六〇円となる(一一〇〇万円×六・四六三二+二三六〇万円×五・〇七五六)。
控訴人嘉吉は、このほかにも精神的損害として一億円の損害賠償請求権等を有しているが、控訴人嘉吉は、右一億九〇八七万九三六〇円の内の一億円を被控訴人の債務不履行による損害賠償として請求する。
2 控訴人進一
被控訴人は、本件合意<2>に従って控訴人進一を平成七年九月にKSグループ各社の代表取締役に就任させることをせず、かえって、平成九年一二月四日開催のKSの株主総会においては取締役としての再任を拒否し、また、平成一〇年三月三〇日開催の鶴見化学の株主総会においても取締役としての再任を拒否した。これにより、控訴人進一の年収は被控訴人のそれに比べて、平成一〇年において三九〇八万円少なくなっている(四七四〇万円-八三二万円)。控訴人進一は、KSグループ各社の代表取締役を六五才に達するまでの二六年間継続することができたはずであるから、その得べかりし報酬額の平成一〇年三月当時の現価は、年五分の割合によるライプニッツ方式で計算すると、五億六一七七万八九〇八円となる(三九〇八万円×一四・三七五一)。
控訴人進一は、このほかにも精神的損害として一億円の損害賠償請求権等を有しているが、控訴人進一は、右五億六一七七万八九〇八円の内の二億円を不法行為又は債務不履行による損害賠償として請求する。
なお、控訴人進一は、控訴人嘉吉と被控訴人との本件合意により、本件合意<2><3>による具体的権利ないし利益を被控訴人に対して取得したものであり、仮にしからずとするも、遅くとも平成五年一〇月六日に本件合意の実現について控訴人らと被控訴人及び訴外千太郎の四名が話し合った際に控訴人進一は第三者のためにする契約における受益の意思表示をしたのであるから、その時点で右の具体的権利ないし利益を被控訴人に対して直接に取得するに至ったものというべきである。
第三争点に対する判断
一 本件合意の有効性について
1(一) 本件合意<1>は、控訴人嘉吉と被控訴人とがKSグループ各社の代表取締役であることを前提とした上で、いずれが会長となり社長となるかについて合意したものである。もとより、会長及び社長という地位は商法上の地位ではないが、それらは通常取締役会において決議されているものであり、右の合意は、取締役会における取締役としての議決権の行使について合意をしたものと解することができるところ、控訴人嘉吉と被控訴人とが右のような合意をすることは何ら不当であるとは解されないから、控訴人嘉吉及び被控訴人は、KSグループ各社の各取締役会において右の合意に従った議決権を行使すべき義務を負うに至ったものというべきである。たとえ、他の取締役の反対によって会長又は社長に就任できない可能性が実際にはあるとしても、そのことから議決権行使の約束自体を無効と解すべきではない。
(二) 本件合意<2>は、(1) 控訴人嘉吉と被控訴人がともに昭和七〇年(平成七年)九月三〇日限りでKSグループ各社の代表取締役を退任することを合意し、(2) そして、その代わりに、控訴人進一及び訴外千太郎をKSグループ各社の代表取締役に就任させることを合意したものである。
右(1) の合意は、控訴人嘉吉と被控訴人の意思のみによって履行し得るものであり、取締役会の決議を要するものではなく、そして、それが商法の精神に反するとも解し難いから、右の合意は有効であり、控訴人嘉吉及び被控訴人は平成七年九月三〇日までにKSグループ各社の代表取締役を辞任する義務を負うに至ったものというべきである(もとより、この義務に違反して代表取締役を辞任しなかったとしても、そのことがその代表取締役としての地位に影響を及ぼすものではない。)。
次に、右(2) の合意は、控訴人進一と訴外千太郎とがKSグループ各社の取締役として選任されていることを前提とした上で、各取締役会における議決権の行使について、控訴人進一と訴外千太郎とが代表取締役として選任されるよう議決権を行使することについて合意したものであるが、取締役会において誰を代表取締役に選任するかにつき予め他の取締役と協議することは、何ら不当ではなく、その際、取締役会における議決権の行使につき一定の者を選任すべきことを約束したとしても、取締役会が多数決によって、決議される機関であることに鑑みれば、何ら商法の精神に反するものとはいえず、したがって、右の合意もまた有効というべきである。これにより、控訴人嘉吉と彼控訴人は、KSグループ各社の取締役会において右の合意に従った議決権を行使すべき義務を負うに至ったものである。しかしながら、控訴人嘉吉と被控訴人との間でされたこの合意は当事者間の合意にとどまるものであって、この合意によって控訴人進一に自己が代表取締役となることの期待権ないし期待利益を生じさせるものと解することはできない。また、控訴人進一が控訴人嘉吉及び被控訴人に対して自己を代表取締役に選任するよう議決権を行使すべき旨を請求する権利を取得するに至ったものと解することもできない。けだし、控訴人進一が代表取締役に就任するのは、控訴人嘉吉と被控訴人との間の右の合意による反射的利益にすぎないものと解すべきであり、控訴人嘉吉も被控訴人も控訴人進一に右のような期待権ないし期待利益を直接に取得させる趣旨で右の合意をしたわけではないと認められるからである。
(三) 本件合意<3>は、(1) 控訴人進一及び訴外千太郎を四年以内にKSの株主総会において取締役に選任する旨の合意をし、(2) かつ、控訴人進一と訴外千太郎とがKSグループ各社において報酬、待遇に関して同一に取り扱われることを合意したものである。
右(1) の合意は、KSの株主総会において控訴人進一と訴外千太郎とをともに取締役として選任するよう議決権を行使すべきことを約束したものと解されるが、本来、株主がどのように議決権を行使するかは株主の自由であり、商法上、株主総会は株式数の多数によって決議される機関とされており、したがって、会社は多数の株式を有する株主によって支配されるものであるとされていることに鑑みると、株主が多数の賛成を得るために他の株主に働きかけて右のような合意をすることは、何らこれを不当視すべきものではなく、これが商法の精神にもとるものともいえないから、右の合意もまた有効であるというべきであり、控訴人嘉吉及び被控訴人は、KSの株主総会において右の合意に従った議決権を行使すべき義務を負うに至ったものというべきである。
次に、右(2) の合意は、取締役に選任された後の控訴人進一と訴外千太郎との間の同一報酬同一待遇を合意したものであるが、それは極めて抽象的であり、仮に、この合意によって控訴人嘉吉及び被控訴人が株主総会及び取締役会において控訴人進一と訴外千太郎の取締役としての報酬や社内における地位が同一となるように議決権を行使すべき旨を約したものであるとしても、何をもって同一というべきかなおあいまいであり、右の合意は、少なくとも報酬額の同一を合意した点を除いて特定性に欠けるものというべきである。また、仮にこの点をしばらくおくとしても、前記のとおり、右の合意は、控訴人嘉吉と被控訴人との合意にとどまるものというべきであって、右の合意によって控訴人進一及び訴外千太郎が同一報酬同一待遇を受ける期待権ないし期待利益を取得したりあるいは控訴人嘉吉及び被控訴人に対して同一報酬同一待遇の実現を請求したりする権利を直接に取得するに至ったものとは解し難いものというべきである。
(四) 本件合意<4>は、控訴人嘉吉及び被控訴人がKSグループ各社の代表取締役を退任した後において、なお取締役としての地位を有していることを前提に、昭和八〇年(平成一七年)末までの約一八年間にわたって双方が同額の報酬をKSグループ各社から受領することができる旨を合意したものである。この合意によって、控訴人嘉吉及び被控訴人は、取締役としての報酬を定めるにつき、株主総会及び取締役会においてともに同額の報酬となるようにその議決権を行使すべきことを約したものと解される。
しかし、昭和六二年から平成一七年末(控訴人嘉吉八三才、被控訴人七五才)までの約一八年間の長きにわたって議決権の行使に拘束を加える右の約束は、議決権の行使に過度の制限を加えるものであって、その有効性には疑問があるといわざるを得ず、少なくとも、相当の期間を経過した後においては、たとえ控訴人嘉吉及び被控訴人がともになおKSグループ各社の取締役の地位にとどまっているとしても、もはや本件合意<4>には拘束されないものというべきである。そして、その相当の期間は、右の趣旨に鑑みると、長くても右昭和六二年八月から一〇年を経過した後の平成九年末までと解するのが相当である。
(五) 本件合意<5>は、その合意内容が具体的特定を欠き、未だ法的拘束力を有しないものというべきである。
2(一) そこで、右を前提に被控訴人に本件合意に反する行為があったか否かにつき検討するに、前記認定のとおり、被控訴人は平成七年九月三〇日までにKSグループ各社の代表取締役を辞任せず、また、控訴人進一が代表取締役に選任されるようその議決権を行使したことはなかったのであるから、この行為は、本件合意<2>に違反するものというべきである。被控訴人はこの債務不履行によって控訴人嘉吉に生じた損害を賠償すべきである。
しかし、被控訴人の右行為によって控訴人進一に損害が生じるものでないことは、前示のとおりである(すなわち、本件合意<2>によって、控訴人進一に自己が代表取締役となることの期待権ないし期待利益が生じるわけではなく、また、控訴人進一が控訴人嘉吉及び被控訴人に対して自己を代表取締役に選任するようその議決権を行使すべき旨を請求する権利を取得するわけでもない。)。
(二) 被控訴人は平成九年一二月四日開催のKSの株主総会において控訴人進一を取締役に再任するよう議決権を行使しなかったのであるから、これは本件合意<3>に違反するものということができる。しかし、これによって控訴人進一の権利ないし利益が侵害されるものでないことは前示のとおりであるから(すなわち、控訴人進一は、本件合意<3>によって、訴外千太郎と同一報酬を受ける期待権ないし期待利益を取得したわけではなく、控訴人嘉吉及び被控訴人に対して同一報酬の実現を請求する権利を取得したわけでもない。)、控訴人進一の本件請求はその余の点について判断するまでもなく棄却を免れない。
(三) また、被控訴人は右平成一〇年三月三〇日開催の鶴見化学の株主総会において控訴人嘉吉を取締役に再任するよう議決権を行使せず、平成一一年一二月一五日開催のKSの株主総会においても控訴人嘉吉を取締役に再任するよう議決権を行使しなかったのであるが、本件合意<4>に法的拘束力があるのは前示のとおり平成九年末までであると解されるから、被控訴人の右行為をもって債務不履行ということはできない。
3 そこで、さらに、右2(一)で述べた控訴人嘉吉の損害について検討するに、控訴人嘉吉は、本件訴訟において左記のとおりの損害を主張し、これ以外の損害は請求していないのであるが、しかし、被控訴人の右2(一)の債務不履行によって右主張のような損害が発生するものとは認められないから、そうとすれば、控訴人嘉吉の本訴請求も棄却を免れないものというべきである。すなわち、
(一) 控訴人嘉吉は、「平成一〇年三月三〇日開催の鶴見化学の株主総会において取締役としての再任を拒否され、また、平成一一年一二月一五日開催のKSの株主総会においても取締役としての再任を拒否された。これにより、鶴見化学の取締役としての報酬年額一一〇〇万円を平成一〇年から平成一七年(昭和八〇年)まで受け取ることができなくなり、また、KSの取締役としての報酬年額二三六〇万円を平成一二年から平成一七年まで受け取ることができなくなった。その得べかりし報酬額の平成一〇年三月当時の現価は一億九〇八七万九三六〇円となる。本件訴訟においてはこの内の一億円を損害賠償として請求する。」旨を主張している。
(二) しかし、控訴人嘉吉の右主張は本件合意<4>に違反したことを理由とする損害の主張であると解されるところ、本件合意<4>については、前示のとおり、平成九年末をもってその法的拘束力はなくなっているのであるから、たとえ被控訴人の反対によって平成一〇年以降控訴人嘉吉が鶴見化学の取締役やKSの取締役として再任されなかったとしても、そのことについて被控訴人に債務不履行責任を問うことはできないのである。
なお、被控訴人が本件合意<2>に違反して平成七年一〇月以降も依然としてKSグループ各社の代表取締役にとどまっているとしても、このことによって控訴人嘉吉に財産的損害が発生したものと認めることはできない。被控訴人が代表取締役にとどまっていること自体によって控訴人嘉吉に財産的損害が生ずるわけではないからである。
二 よって、控訴人らの本件請求を棄却した原判決は結論において正当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 原田敏章 裁判官 榮春彦は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 矢崎秀一)